☆療養中の時間がくれた「静かな読書」




病気療養中という、普段とは違う時間の流れの中で、少しゆっくりと本を手に取る機会がありました。




その中で特に印象に残ったのが、M・スコット・ペック著『平気でうそをつく人たち ― 虚偽と邪悪の心理学』という一冊です。




タイトルを見ると、少し強い印象を受けるかもしれませんが、中身は非常に静かで深く、「人間の心のあり方」を掘り下げた本です。




心理学や精神医学の視点をベースに、嘘・偽り・自己正当化の心理が丁寧に描かれています。




☆嘘は「悪意」ではなく「防衛」から始まることも




この本の中で印象的だったのは、“嘘をつく人=悪人”ではないという考え方です。




むしろ、心の傷や不安、自己防衛のために嘘に頼る――そんな弱さが、人をして“平気で嘘をつく人”にしてしまうこともあるのだと。




たとえば、自分の非を認めたくない、ミスを隠したい、悪い人間だと思われたくない……




そういった感情が、やがて“自分は間違っていない”という思い込みにつながり、




他人を責めたり、話をすり替えたり、いつしか“正義の側に立った嘘”を語るようになっていく。




ひとつには 偽りを支える環境や教育歴が原因だったりすることもあるようです。




つまり家庭環境・親子関係が冷たかったり、無条件の愛が感じられなかったり、自尊心が損なわれていたりするケースが多く、心の傷が、嘘や偽の自己を作るベースになるそうです。




静かに、でも確実に“誠実さ”が後退していく過程に、思わずゾッとしました。




☆組織にとって「誠実さ」は最も価値ある資産




この本を読みながら、自然と人と人との信頼関係や、組織運営の在り方についても考えました。




組織において嘘や責任転嫁が常態化すると、空気が濁っていきます。




問題の本質が見えなくなり、努力より“ごまかしの上手さ”が評価されるようになってしまう。




その結果、誠実にやっている人ほど損をして、やがて疲れて離れていく。




これは、どんなに売上や成果を出していたとしても、組織としての健全さを内側から壊していく危険な兆候だと感じました。




☆誰もが「誠実さ」と「嘘」の境界に立っている




私自身も、立場上、判断や指示を下すことがあります。




そして同時に、従業員や関係者の言葉や態度を“見ている側”でもあります。




だからこそ、この本を通じてあらためて思いました。




人の評価は、成果やスキルだけでは測れない。




その人が“誠実であろうとしているかどうか”、その姿勢が最も重要だということを。




☆最後に:これは自戒として、そして静かな呼びかけとして




この本を読んだからといって、誰かを「邪悪だ」「嘘つきだ」と断じるつもりはありません。




むしろ、自分自身にも偽りやごまかしの瞬間はなかったか、それを振り返る良い機会になりました。




組織の中でも、家庭でも、社会でも――




完璧であることは求めませんが、「正直であろうとする姿勢」だけは忘れたくないと、療養の静かな時間の中であらためて感じました。




この本には、そんな心の支えになる言葉が詰まっています。




もし興味があれば、手に取ってみてください。静かだけれど、力強い本です。




「嘘をつくな」と言うよりも、




「誠実でいることを、自分のために大切にしてほしい」――そんな思いを込めて、この本の感想をここに記します。